ライブやレコーディングでは、ボーカルマイクの選択や使い方で歌のクオリティーは変化します。
しかし、歌に熱心な人でもマイク選びが適当、適切な使い方を知らない人が非常に多いです。
ボーカルは必ずマイクを通して聴き手に伝わります。
自分にあったマイクの選択、表現に適したマイクの使い方で表現力は大きく向上します。
今回はマイクの種類と選び方、レコーディングの際の距離の取り方等『マイキングのコツ』についてお話しします。
ダイナミックマイクとコンデンサーマイク
マイクは大きく分類すると『ダイナミックマイク』『コンデンサーマイク』の2種類。
ダイナミックマイク
振動板と呼ばれる振動部が共振する事で、音を信号に変化させる構造のマイク
- 構造がシンプルなため耐久性が高く、丈夫で扱いやすい
- コンデンサーマイクと比べ安価
- 騒音に非常に強く自宅録音など雑音のある環境に最適
ボーカルなど音が大きく響きが狭い楽器であれば、多少の騒音があっても問題ありません。
『コンデンサーマイクの方が音が良い』という論調を時折見かけますが大きな誤解。
『高域の収録に弱い』『抜けが悪い音』になりやすいのがダイナミックマイクの特徴。
しかし、ダイナミックマイクの魅力はなんといっても『豊かな中音域』
『Shure SM58』に代表する、安価で音の良いダイナミックマイクは世界中で愛されてます。
ちょっとコモり気味ながら、温かくて存在感のある素晴らしい味のある音に仕上がります。
コンデンサーマイク
コンデンサーに電圧をかけ、振動による変化の間隔を電気信号に変換し入力するという構造。
その構造上『ファンタム電源』と呼ばれる電源が必要になります。
- 感度が高く、細かなニュアンスの録音が得意
- ウィパーボイス等、透明感のある歌声に最適
- 湿気や衝撃に弱いため、管理には注意
- 雑音も細かく収録するので防音などの対策が必要
レコーディングスタジオでは定番の形式のコンデンサーマイク。
防音されたスタジオでは、繊細なニュアンスも逃す事なく収録し、細かな表現力に絶大な威力を発揮します。
魅力はなんといっても「音の透明感」
まるで目の前で歌っているような歌の臨場感は、一流のコンデンサーマイクだからこそです。
マイクの指向性
マイクには『指向性』というものがあります。
簡単に説明すると『どの方向の音を録音するのか?』という事です。
単一指向性
音楽の録音に一般的つかわれるほとんどがこの種類。
マイクの前方方向の音のみを録音する、という方式。
最近は『コンデンサーマイク』で単一指向性のボーカルマイクが人気です。
自宅録音では扱いにくいコンデンサーマイクですが、単一指向性は録音範囲が限られており簡単な防音対策でも使える製品が多いです。
最近は安価なシリーズも増え、初めての方も手に取りやすいマイクになりましたね。
全指向性
文字通り360度の音を録音します。
環境音、SEなどの収録に適したタイプ。
会議等の収録にもよく使われます。
全方向から録音したところで『サラウンド』のように録音できるわけではありません。
音楽では用途の少ない方式です。
双指向性
正面と背面の録音に特化した形式。
カーナビの音声認識などのマイクに使用されています。
側面の音を一切収録しないという性質上、狭い範囲の録音に強く、音楽制作の現場でも隠し味として使われる事があるようです。
個人の主観としては、音は左右に広がるほど『力強さ』を失いがち。
側面を収録しない双指向性は、上手に使えれば『繊細かつ力強い音』を作るのに良い戦力になるのではないかと思います。
『オンマイク』と『オフマイク』
オンマイク - マイクから10センチ以内の距離で歌う
ライブの際はマイクにかぶりつくように歌っている、あれがオンマイク。
ウィスパーボイスの息漏れの収録や、細かいニュアンスの表現に向いています。
- メリット:息づかいや細かなニュアンスを収録しやすい
- デメリット:安定した音量で歌う必要があり、突然大声を出すとクリップノイズが生じる
オフマイク=マイクから30〜50センチ程度の距離をあけて歌う
バラード歌手やパワフルな歌手に多い、マイクから距離をとるマイキング。
マイクを50センチ近く離して歌う人もいます。
声が大きくなるワンポイントでマイクを離す事で、ボリュームの調節にもよく使われます。
- メリット:大きな声でもクリップの心配がなく、思い切った歌い方が出来る
- デメリット:出力が低いため、声が小さいとノイジーな録音になりやすい
声質にあったマイキング
オンマイクに向いている歌唱法
ウィスパーや穏やかなフォークなど、抑揚のない優しめのジャンルのシンガー。
※手島葵・ノラジョーンズなど
小さなニュアンスを細かく表現したい人に向いています。
オフマイクに向いている歌唱法
ロック・ソウルなどパワー系のシンガー。
※ONE OK ROCK・Superflyなど
小さなニュアンスが収録されにくく、表現はオーバーかつ大胆に行う必要があります。
表現方法によって適したマイクとの距離感が異なるのがお分かりでしょうか?
音楽によってつかいわける
曲中でオンマイクとオフマイクの使い分けをすると効果的。
シーンによって声質とマイキングを調整することで、表現力と声質を同時に満たす事ができます。
Aメロはオンマイクで優しい声、サビはオフマイクで大胆に、など構成を考えておくと、音量感を整えつつ抑揚のあるニュアンスの表現ができます。
プロのシンガーはオン・オフだけでなく、ニュアンスに従って細かくマイク距離を調整します。
※部分的に大声を出す時だけオフマイクにする、など
ボーカル録音の大事なポイント
オンマイク・オフマイクを使い分けると、さまざまなニュアンスが表現できますが注意点もあります。
どんなマイキングでも「音量を均一に保つ」ことが大事。
音量がガタガタだと変なピークが出来たり声質がばらついたりしてしまい良い結果になりません。
声量を整えつつニュアンスを表現できるように普段から基礎トレーニングを行うことも大切です。
マイクとの距離感を適正にあわせると、モニター音も聴き取りやすくなり表現力も向上します。
是非、ワンランク上のマイキングを実践してみてくださいね!